【アレルギーが心配なママやお子さんへの対処法】
妊娠中のママの食事について
- 妊娠中の食事制限の有効性はなく(効果がない)、食事制限せず偏食せずバランスよく食事を摂取する
- 授乳中も予防的な母親の食事制限は有効性がないとされており、食事制限をせずバランスよく食事を摂取する
乳幼児に対して
- 自己判断で離乳食の開始時期を遅らせる必要はない
- 母乳栄養が混合栄養に比べてアレルギー予防に優れているとは言えず、完全母乳にこだわる必要はない
- アレルギー予防を目的に低アレルゲン化ミルクの使用は、医師の指導でのみ実施する
【どんな時、ご両親は乳児の食物アレルギーが心配になる?】
ご両親は乳児期に湿疹が出たり、離乳食を与え始める頃になると赤ちゃんが食物アレルギーかしらと心配になります。
乳児の食物アレルギー発症には二つのタイプがあります。
- アトピー性皮膚炎などの頑固な湿疹として発症するタイプでこれが90%を占めます
- 食事を与えてすぐにじんましんなどの急性の発疹としてみられるタイプ、これは10%以下です
〈原因物質〉
1、2どちらも鶏卵が一番多く、牛乳、小麦の順でこれら3つで90%近くを占めます。
乳児の食物アレルギーは、アトピー性皮膚炎などの頑固な湿疹と密接に関係があります。
乳児期に食物アレルギーと言われた方でも、食物に感作(アレルギー症状を引き起こす状態をつくり出すこと)されるのは1歳までが大半で1歳以降は5.3%であり、食物抗原による感作は主として乳児期におこっています。
【乳児期に食物アレルギーが関与するアトピー性皮膚炎や、頑固な湿疹と言われたお子さんの対処法】
食物アレルギーが関与するアトピー性皮膚炎は消化機能や腸管の局所免疫能が成熟する、1歳以降に軽快します。
<皮膚のバリア機能を強くするための皮膚の手入れ>
- 乾燥を防ぎ、肌の保湿をする(必要なら保湿剤を使用する)
- 汗を拭き取る
- 皮膚を掻かない
- 石鹸や洗剤などの成分にも気を配る
- 肌触りの良い衣類にし、圧迫や刺激を避ける
- 炎症の起きている所は、ステロイド外用剤で治療する
- この間、経皮感染を引き起こしにくくするため保湿を心がけ 皮膚炎がある場合ステロイド外用剤によりハダをいい状態に保つよう心がけましょう
- 原因となっている食事については、勝手な制限はせず、必ず担当の医師に相談し、制限は必要最少限にしましょう
- 以前のように、検査結果だけで、今まで食べていた食品を無条件に制限することはありません。詳しくはかかりつけ医と相談して決めましょう
- 将来は食べられるよう時期を見て与える方向で経過をみましょう
- 原因物質の除去により、皮膚のバリアー機能の修復をめざし、経皮感作(皮膚を通したアレルギーの発症)を起こりにくくしましょう
治療の原則を一言で表すと、スキンケアと適切なステロイド外用療法、必要最小限の食事除去です。
【新たな治療法、積極的摂取による治療・アプローチについて】
食物アレルギーは、以前は除去食という考えを中心に基本的治療が行われてきました。
(これは今でも基本的に正しいです)
近年、症状が安定していれば適当な月令から経口的に食物を摂取する方向に変わってきています。
これは、体が食べ物を摂取することにより、異物ととらえず少しずつ食べられるようになる機能が腸にそなわっているためと考えられるようになったからです(腸管の免疫寛容と呼びます)。
食物アレルギーは、本来そなわっている腸管免疫寛容のシステムがうまく動かないか、働きが壊れた場合に発症すると考えられています。
その為、妊娠中や授乳中の母親の予防的な食物制限や 乳児の離乳食の開始時期を遅らせる事は、アレルギー発症予防効果はないとされています。
適切な時期の食物摂取が必要です。
【積極的摂取(経口免疫療法)による治療の適応】
〈適応者〉
該当食品の摂取を希望する。あるいは除去が困難である。
除去が容易な場合は除去を優先する。
治療に伴なう危険性を十分理解している。
家庭で発生した副反応に対して、対応が可能である。
〈特 徴〉
経口免疫療法には、数か月から数年をかけてゆっくり行うものから、数週単位の急速法があります。
急速法の適応児は重症で、年齢が高い人で、入院を必要とする治療法です。
【食物アレルギーについて(全年齢に共通)】
〈原 因〉
乳幼児の主なアレルゲン(原因)は、鶏卵・牛乳・小麦・大豆です。
そば・ピーナッツなどのナッツ類、えび・カニ・魚などは幼児期以降に発症しやすいです。
〈経 過〉
乳幼児期に発症するアレルゲンは、自然耐性化=年齢と共に食べられるようになる事が多いですが、幼児期以降の原因となるものは大きくなってもアレルギーのままの事(食べられるようにならない)が多いです(耐性を獲得しない)。
乳幼児に多い 卵白・牛乳は年齢とともに食べられるようになる事が多いです。発症時の症状の強い方、検査値(抗体)の高い方、検査値の低下しにくい方は自然耐性化しにくい。
すなわち食べられない事もあります。そば・ピーナッツなどのナッツ類は、幼児期以降に発症し、その後も食べられない事が多いです。
キウイ・モモなどのフルーツは、幼児期以降に発症し、口の中がイガイガするなどの口腔アレルギー症状になりやすく、耐性を獲得しにくい(食べられるようにならない)事が多く、ゴム類(ラテックス)にもアレルギー症状(皮膚炎)を引き起こしやすいです(ラテックスフルーツ症候群)。
【アトピー性皮膚炎から見た食物アレルギー】
アトピー性皮膚炎は、アレルギー疾患の代表と考えられていますが、発症には肌のバリア機能の低下=肌が荒れている事と素因(アレルギー体質)の二つが関与しています。
乳児ほど食物アレルギーの関与が重要で、年長期になるにつれてホコリ・ダニ・動物などの吸入抗原やストレスなどの比動が大きくなります。
生後6ヶ月以内に皮膚炎がみられる場合や皮膚炎の症状が重症である程、ピーナッツ・鶏卵・ミルクアレルギーのリスクが高くなると言われます。
食物アレルギーがアトピー性皮膚炎を引き起こす機序の一つとして最近の注目は、湿疹になった皮膚(バリア機能の低下した皮膚)に食物が接する事によりアレルギー反応が起こり、同じ食物を口から摂取すると食物アレルギー症状や時にアナフィラキシーを引き起こすのではないかと報告されています。
(最近報告された、茶のしずく石鹸による小麦アレルギーがその実例です)
全ての年齢に共通する増悪因子は皮膚を掻く事による悪化ですので、上記に述べた皮膚のケアが大切です。
【花粉果実症候群・ラテックスフルーツ症候群】
シラカンバ花粉症の人がリンゴアレルギーを引き起こす(花粉果実症候群)、ラテックス(ゴム)アレルギーの人がキウイなどにアレルギーを起こす(ラテックスフルーツ症候群)ことが知られています。理由はそれぞれに含まれている同じ成分があり、それがアレルギーの原因になるためです。
多くは、口腔アレルギー症候群と言う口の中がイガイガになるなどの軽い症状の事が多いですが、時にじんま疹・喘息・アナフィラキシーを引き起こす事があります。
主な花粉と交差反応性が報告されている果物・野菜
花粉 |
果物 ・ 野菜 |
シラカンバ | バラ科(リンゴ・洋ナシ・サクランボ・モモ・スモモ・アンズ・アーモンド)、 セリ科(セロリ・ニンジン)、ナス科(ポテト)、マタタビ科(キウイ)、 カバノキ科(へーゼルナッツ)、ウルシ科(マンゴー)、シシトウガラシ、など |
スギ | ナス科(トマト) |
ヨモギ | セリ科(セロリ・ニンジン)、ウルシ科(マンゴー)、スパイス、など |
イネ科 | ウリ科(メロン・スイカ)、ナス科(トマト・ポテト)、マタタビ科(キウイ) ミカン科(オレンジ)、豆科(ピーナッツ)など |
ブタクサ | ウリ科(メロン・スイカ・カンタローブ・ズッキーニ・キュウリ)、 バショウ科(バナナ)など |
プラタナス | カバノキ科(へーゼルナッツ)、バラ科(リンゴ)、レタス、トウモロコシ、 豆科(ピーナッツ・ヒヨコ豆) |
【新生児乳児アレルギー】
主に人工乳を摂取した後、血便や嘔吐、下痢などの症状する疾患を、新生児乳児消化管アレルギーと呼び食物アレルギーの一つです。
〈治 療〉
原因食物を除去する。
牛乳たん白の場合は、ミルクアレルギー用のミルクを使用する。
症状の改善と体重増加をめざす
〈予 後〉
成長障害などの危篤な合併症がなければ予後は良く、2歳までには症状が消失する事が多い。
【当医院での食物アレルギーを疑われる方への対処法】
離乳食を与える前に、検査をして与えるか与えないかを判断することはほとんどありません。
湿疹などの症状のない方に、検査をしてみることも原則ありません。
困っている症状(湿疹など)がなければ、検査上、アレルギーの数値が少し見られても、むやみと食事制限をすることはありません。
食物を摂取して、湿疹などの症状が出た場合、 写真を撮って、あまり時間を置かず、受診して下さい。
湿疹などの皮膚症状がある場合、皮膚のケアをしないで食事療法のみで行う事はありません。
必要に応じて検査、食事指導、湿疹に対する処置の指導を行います。
食事制限、特に乳幼児で食事制限を行なっている食材の多くは年齢が上がると食べられるようになることが多いです。3か月に一度、制限している食事の見直しを行いますので、定期的に受診して下さい。制限したままにしならない様気を付けてください。